最初に気づいたのは真一だ。
「母さん。しばらく見ないうちに何だか顔色が良くなったね」

「あ?そうかい?」

「何か運動でもしてるの?」

何も、と言いかけて亜紀子は、ふと思いついた。
ジローのおかげかもしれない…。
心配で、色々と働いているうちに少しづつ健康になったのかも…
だとしたら、今までのうっかりはわざと?

そんな馬鹿な、と亜紀子は自らを笑った。
ジローのミスである事は明らかである。
だが、そう考える事で亜紀子とジローの間に
今までとは違う何かが通い始めた。

「ジロー。散歩に行くわよ」

「ハイ。アキコサマ。ジローハ ウミガ ダイスキデス」

「変なロボットだね、お前は」

「ハイ ヘンナロボットデス。
ア。アキコサマ。ツエヲ オワスレデス」

「いいんだよ。もう杖はいらない。
お前のおかげで少しは歩けるようになった。
確かにお前は一流の介護ロボットだね」

「ソレデモ ネンノタメ」

「あたしの杖は、これじゃない。
あたしの杖は、ジロー、おまえじゃないか」

目玉をクルリ、と回してジローは亜紀子の手を支えた。
時間を掛け、海を一望できる丘に向かう。
そこには花が咲き乱れる墓地がある。
ジローと亜紀子は花の中に座り、夕陽が落ちるまで海を眺めて過ごした。

その日初めて、鯨の群れが姿を見せた。