江戸、日本橋。
行き交う旅人や飛脚達、馬、荷車。
ごった返している。
太郎丸と韋駄天は、これ以上無理というぐらい
目を丸くしていた。

「さ、太郎丸。まずはこちらだ。柳生とかいう
屋敷だが、なに、堂々としていれば良い。
そなたはわしらの大事な用心棒だからな」

歩き出す十兵衛に向けて、太郎丸が雑踏に負けじとばかりに
大きな声で話し掛けた。
「おじさん、延命丸って何処で買えるのかなぁ」

その途端、夥しい殺気が十兵衛達一行を押し包んだ。
人々の立ち振る舞いは変わらない。
町の温度だけが急激に下がったようだ。
韋駄天が牙を剥きだす。

「おじさん。俺何か不味いこと言っちゃったか?」

「若。何事でございましょう」

「判らぬ。だが、いらぬ揉め事は避けたい。急ぐぞ、又佐、太郎丸」
粘りつくような殺気がいつまでも十兵衛達にまとわりついていた。



三十へ