林田は真由加に近寄った。
すでに真由加の肉体は、そこかしこが溶け始めていた。
ここまでたどり着けたのが奇跡に近いことだったのだ。

「利樹君、早く逃げて…沙耶加、お姉さまと一緒に
ここで滅びましょう」
沙耶加が真由加の手を握る。

「真由加、もう、君と一緒に行くことはできないのか」

真由加は、林田が愛した、あの微笑を浮かべた。
「ごめんなさい、俊樹君。あの桜の伝説、嘘だったね…」

それが最後の言葉だった。

林田は最後にもう一度、真由加に口づけた。
その唇はまだ、ほんのりと温もりを残していた。

「おじさま、さよなら。お姉さまのこと、忘れないでね。
いつか、きっとその伝説の桜に行くはず。待っててあげて」

沙耶加が火を放った。
たちまち燃え上がる広間から逃げながら、林田は
後ろを振り向いて見た。

沙耶加がいつまでも手を振り続けていた。