いきなり前蹴りが啓吾の腹に入った。
溜めていた息が全て漏れる。
うろたえた啓吾に、畳み掛けるような攻撃が続く。
右正拳、左中段蹴り、右下段蹴り。
面白いように入れられていく。

痛い。痛みと言うのは、こういうことか。
啓吾は、熱烈な感動を覚えていた。
何だ、痛いっていうのはこういう事だったのか。
気がつくと、啓吾は笑っていた。

「止め」
結局、啓吾は赤井に何も出来なかった。

「どうでした。」
美濃浦の問いに、啓吾は一言だけ返した。

「痛かったです」

「痛いでしょ。殴られると。空手をやって、何かが喧嘩に
役立つとしたら、それです。痛い、ってことを
よく解るようになる。怖がらなくなる。もう一度、
やりますか?」

「押忍」
啓吾はその日、30分闘った。
体中が痛みで火照っていたが、一番火照っているのは
啓吾の心だった。

良太は、少しずつ登校し始めていた。香織がのんびりと付き合ったのが
功を奏したのかもしれない。
相変わらず、啓吾とは会話を交わすことは無かったが、
それでも一つ、進歩だった。
だが、その努力を踏みにじる出来事が起こった。

良太が万引きしたのだ。