「薄情だとは思うが、あの時は本当に怖くてな」
そう言って、A氏は頭を掻いた。

しばらくして、静まり返った部屋を覗くと、T雄がヘラヘラと笑っていた。

「しっかりしろ!」

逃げ出しておいて、今更しっかりしろも無いが、他にかける言葉も無い。
何があったんだと訊くと、急にガタガタと震えだし、こう言った。

「箱、開けたらな、中にぎっしりと隙間無く埋まってたんだ」

「人魂がだろ?自分で捕まえてきて、悲鳴なんかあげんなよ」
皆、そうだそうだと頷く。

「違うんだよ。ただの人魂じゃ無かった。
…顔がついてたんだ。
箱ん中をミッシリと埋めた顔が、小さな声で『殺してやる』って言ったんだ」

皆、一斉に箱を見る。
箱が少し動いたが、
誰も確かめようとしない。

「俺、帰るわ」

「俺も」

「じゃあな」

「待ってくれよ、一人にしないでくれ」

懇願するT雄を振りほどき、A氏も逃げ出した。
「頭の中で自業自得って言葉がグルグル回ってました」

そう言ってA氏は何とも言えぬ表情を見せた。

「あの…その後、T雄さんはどうなったんですか」

A氏はなかなか答えてくれない。

「あの…」
なおも問う俺にA氏は渋々話してくれた。

「わからない」

「わ…からないって」

「次の日訪ねたら、居なかった…
その日から行方不明のままだ」

部屋には、あの箱は無かった。
何だか、言いようの無い臭いが部屋中に満ちていたらしい。