幸いにも風は、稲をなぎ倒すほどではない。
大丈夫だなと、ひと安心して帰宅しかけた近藤さんは、その場に固まってしまった。

道の真ん中に、いつの間に現れたか女がいる。

街灯一つ無い田舎道に、ぼんやりと光りながら女が立っている。

「なんじゃありゃ」
思わず近藤さんは口走ってしまったという。

何故ならば、その女は花嫁衣装を着ていたからだ。
打掛、掛下、帯に扇子まで純白の、いわゆる白無垢の花嫁である。
顔は、角隠しで隠れて見えない。
強風にも関わらず、衣装は全くなびかない。

近藤さんの目前で花嫁はゆっくりと向きを変え、畦道を越え、田の中に入ろうとしている。

近藤さんは怖いというよりは、白無垢が台無しになる事が心配になり、声をかけようとしたが、寸での所で思い留まった。

花嫁が足を乗せても、稲穂が沈まないのだ。
まるで道の上を歩むが如く、するすると稲穂の上を渡り、真ん中辺りで止まった。

稲穂の上で微動だにせず、じっと俯いている。

近藤さんは、この瞬間、ようやく恐ろしくなったらしい。

花嫁から目を逸らさず、這う這うの態で逃げ出した。

だが、本当の恐怖は翌朝訪れた。