先生の一人、井関奈美恵もまた、ヒゲ熊の話の大ファンである。

このところ、彼女の好奇心をくすぐって止まない謎がある。
次から次へと豊富に湧いてくる話をヒゲ熊は何処で仕入れて来るのかという事だ。
奈美恵が知っているだけでも、その数は三百を優に超える。
そのいずれもが、今までに聞いたことも無い話ばかりなのだ。
プロの童話作家でなくては無理ではないか、彼女にはそう思われた。

事実、先生方の中には、ヒゲ熊を何かの雑誌で見たという者まで現れる始末であった。

その答は、意外にも奈美恵の母親が知っていた。
故郷から遊びに来た母親が、奈美恵の職場に挨拶に来た折りにヒゲ熊を見かけ、話しかけたのである。

奈美恵が驚いたことに、二人は旧知の間柄のようであった。

帰宅の挨拶もそこそこに、奈美恵は早速、母にヒゲ熊の素性を尋ねた。

誰にも言わない約束で母は話し始めた。

母は以前、小児病棟の看護師をしていた。
ヒゲ熊は、その時担当していた患者の父だと言う。

「とても可愛い女の子でね。元々、視力が弱かったらしいけど、ベーチェット病が原因で完全に視力を失ってね」