「ところがね、あきちゃんのお母さんはクリスマスイブの前の日に、交通事故で亡くなってしまった」

「え…」
直美は急に息苦しくなった。
見ると、谷山は不自然に上を向いている。
何度もまばたきを繰り返している。

谷山の折角の努力も無駄になった。
どれほど隠そうとしても、声が泣いている。

「あきちゃんがどうなったか、判らないんだよ。
でもね、何とかしてこれを渡したくて、僕は無理を言って毎年クリスマスの夜には取り置き棚に置かせて貰ってるのさ。」

只の自己満足だけどね、と谷山は寂しげにつぶやいた。

その日の午前中、直美は暖かな気持ちを抱えたまま仕事を続けた。

厳しくみえる谷山に、思わぬ一面が有った事が意外であったのだ。

社員食堂で、同僚の良子にその話をした。
人一倍涙脆い良子は、親子丼を食べながら涙をこぼしている。

「何とかしてあきちゃんに渡せたらいいのにねぇ…」

そう話し合う二人の肩がいきなり掴まれた。

驚いて振り向く二人の前に居るのは若い女性だ。
食品売り場の制服を着ている。

「今の話、本当ですか!」

その声が震えている。
胸の名札には中谷明子と書いてあった。

おわりへ