須賀さんは自転車通勤である。
その日、想いを巡らせながら自転車を走らせていた。

田舎の朝である。
道路は広いが、どうかすると車どころか人影すら無い時もある。
十字路で止まった途端、携帯にメールが届いた。
チェックしていると、信号機が『通りゃんせ』のメロディーを奏でたという。
携帯を見ながら自転車を走らせた瞬間、軽トラックが突っ込んできた。
慌てて避けた拍子に、須賀さんは派手に転んでしまった。

幸い、両手の打撲だけで済んだらしい。
前輪も、道路をすっ飛んで行った携帯も傷一つ付いていない。
くそ、参ったな、と手の痛みを堪え、自転車を走らせながら気づいた。

通りゃんせって何だ。
あの十字路で、そんな音を聞いた覚えが無い。
わざわざ引き返し、念入りに調べてみたが、やはりそんな音が出るような
設備など見当たらない。
訳が分からないまま、尚も自転車を走らせ、次の交差点に
差し掛かった。
ここは、通りゃんせのメロディーの代わりに、カッコウの鳴き声がする。
手の傷を調べながら青に変わるのを待った。

また、通りゃんせのメロディーが流れてきたという。
顔を上げると、信号は赤のままだった。

「どうしても通らせたかったらしいんです」
一応、念の為にその道を通るのは止めたそうだ。