次の朝、母はいつもの母であった。
朝のテレビを微笑みながら見ている。
「しいちゃん、この人って歌、上手だねぇ。なんて言う人?」
「なによ、母さん…」
忘れたの、と言葉を続けようとして、静江は戸惑った。
母は、この演歌歌手のファンクラブに入っている。
毎年、静江がプレゼントするディナーショーにも行っている。
忘れる筈が無いのだ。
「樋川きよしって言う人よ」
「ああそう。上手いねぇ、可愛いねぇ」
認知症。
その言葉が、静江に重く降り積もってきた。
節子は、そんな静江の気持ちに気付くことなく、
ニコニコと笑っている。
その日を境に、節子は少しづつ壊れていった。
毎朝、台所で緑色の皿を探すことが日課になった。
それ以外は、ぼんやりと部屋の片隅で童謡を口ずさんでいる。
ふらふらと出歩くわけでもなく、声を荒げる事もない。
ただ、毎日のように皿を探し、歌を歌うだけだ。
有り難いと言っては語弊があるが、
それほど手が掛からないのは幸いであった。
しかしながら静江は、そんな母の姿に心を傷め、
気付かぬうちに深く静かに疲れていった。
朝のテレビを微笑みながら見ている。
「しいちゃん、この人って歌、上手だねぇ。なんて言う人?」
「なによ、母さん…」
忘れたの、と言葉を続けようとして、静江は戸惑った。
母は、この演歌歌手のファンクラブに入っている。
毎年、静江がプレゼントするディナーショーにも行っている。
忘れる筈が無いのだ。
「樋川きよしって言う人よ」
「ああそう。上手いねぇ、可愛いねぇ」
認知症。
その言葉が、静江に重く降り積もってきた。
節子は、そんな静江の気持ちに気付くことなく、
ニコニコと笑っている。
その日を境に、節子は少しづつ壊れていった。
毎朝、台所で緑色の皿を探すことが日課になった。
それ以外は、ぼんやりと部屋の片隅で童謡を口ずさんでいる。
ふらふらと出歩くわけでもなく、声を荒げる事もない。
ただ、毎日のように皿を探し、歌を歌うだけだ。
有り難いと言っては語弊があるが、
それほど手が掛からないのは幸いであった。
しかしながら静江は、そんな母の姿に心を傷め、
気付かぬうちに深く静かに疲れていった。