じりじりと間合いが詰まる。おそらく、決着は一瞬で付く。
何かの合図がしたかのように、二人が同時に踏み出した。
十兵衛が先に斬りかかる。
だがまだ遠い。通常の十兵衛なら、こんな遠間では勝負に出ない。
さしもの十兵衛も、慣れぬ逆手持ちで間合いを見誤ったか、
誰もがそう思った時、
毘沙門天の右肩から、どぼ、という音と共に腕が落ちた。

己の体から離れた右腕から刀をむしり取りながら、毘沙門天が叫んだ。
「ぐぅっ…何故だ。何故その間合いでっ!」

正眼に構えなおす十兵衛を見て、更に叫ぶ。
「その刀は…何だっ!」

十兵衛が不適に微笑む。
「斬月という。この者の父君が刀。剃刀の切れ味を持つ斬馬刀よ」

そう答える十兵衛を太郎丸がぼんやりと見ていた。
「すげぇ。お父と同じだ。斬月を正眼に構えた…」

十兵衛は巨大なその刀を楽々と扱い、たちどころに毘沙門天を
追い詰めた。毘沙門天は何度か飛び込もうとしたが、斬月の間合いは
異常に広いのだ。どうにもならない。

「く。凄まじい剣風よの…だが負けるわけにはいかぬ」
毘沙門天は剣を納めると、再び空中に浮かんだ。



七十九へ