「なんでだろ。あの瞳に見つめられると、何故だか逆らえない」

それこそが危険な前兆なのだが、そのことすら気づかせない何かが
麻理を支配している。
ベッドに横になり、ぼんやりと天井を見つめる麻理の胸のポケットで
携帯が鳴った。

「あ。忘れてた」
起き上がって携帯を開く。

「うぁぁ。やっぱり。店長からのメールじゃん」

『明日帰ります。予定遅れて申し訳ない』

そうだ、店長に現在地を知らせておけば、何か役に立つかも。
麻理は今までの状況と、現在地、それに加えて館の主の
奇妙な言動を返信した。

「これでよし、と。ま、すぐには返事ないだろうけど」
ところが麻理の予想を裏切り、店長から直ぐに返事が帰ってきた。

「あれま。珍しい。どれどれ…」

『ベイと言ったのか。間違い無いか?フルネームと、特徴を
もう一度ハッキリと書いて送れ』

「なによ。めんどっちいわね」
ぶつぶつ言いながらも、指は休めない。
根が素直な麻理なのだ。

「名前はカズィクル・ベイ。背が高くて、
尖った鼻、尖った顎。吊り上がった目。
長い黒髪。鼻の下と、顎との両方に髭…と。返信」

送信して二秒後に返事があった。

「速っ!」
メールを開けると、ただ一言だけ記してあった。


『逃げろ』