「ふん。命冥加な奴。が、二度目は無い。我が抜刀術の前に散るが良い」

増長天、いや、大石進は、その長い竹刀で名を馳せた男である。
だがしかし、それのみを携えて道場破りの旅に出るほど迂闊な男ではない。
奥の手がある。
それは、密かに練り上げた抜刀術であった。
通常、抜刀術は比較的短い刀で行う。
長刀を使う者は稀である。
大石自身、己が抜刀術を修めようなどとは思いもよらなかった。
鞘に収めた刀より、抜き身の刀の方が速いではないか、
常日頃から、そう嘯いていたぐらいである。

想いを改めさせたのは、旅の途中に出会った名も無い剣士であった。
大石は、この剣士が使う抜刀術に負けたのである。
その時から三年。
大石は落ちてくる葉を三度斬るまでに腕を上げた。

抜刀術は鞘から刀を抜くと同時に、一拍子で斬る。
抜き身の刀では、構え・斬る、という二拍子になってしまう。
鞘は邪魔にはならず、刀の方向性を決める発射台となるのだ。
大石の長い鞘は、速度を増す為に寧ろ有効であった。
只でさえ間合いが掴めない抜刀術、しかも長刀。
いつ発せられるか、どこまで届くか、相手には全く予想が付かない。
ほとんど銃撃と言っても良い。
尚且つ、大石は増長天に変化している。
その間合いは当時の剣術の常識を遥かに超える。