「ふん。なんだか
間抜けな顔だねぇ。
ジロー、紅茶を持って
おいで。」

「ワカリマシタ。
アキコサマ。」


「じゃあ母さん、僕ら
は帰るからね。
仲良くしてよ。それと
その杖。いくら護身用
とは言っても、電流が
流れるんだから。
ジローには使っちゃ
駄目だよ。」

「はいはい。わかった
わかった。さっさと
お帰り。仕事が忙しい
んだろ。」


憎まれ口を別れの
挨拶代わりにして、
息子夫婦を見送る
アキコの後姿は、
その元気とは
裏腹に寂しげだった。


「なんで私は
ありがとうが言えない
かねぇ…アキちゃんは
ちゃんとお礼が言える
良い子だねって、昔は
言われたもんだが。」

そう呟き、のろのろと
部屋に戻り、大きな
ロッキングチェア-に
座る。

「ええと…名前は…
そうそう、ジロー!
ジロー。お茶はまだ
かいっ!」


派手な音が台所から
聞こえてきた。

「…まさかあの
バカロボット!」

杖を頼りに、急いで
台所に向かう。
そこで、彼女が
見たものは、粉々に
砕けたお気に入りの
ティーカップセット
と、仰向けに
ひっくり返っている
ジローだった。

「あたしの大切な
紅茶セットがっ!」

アキコは思わず、
持っていた杖で
ジローを叩いた。

その瞬間、杖から
自動的に電流が流れ、
ジローは飛び起きた。

「スイマセン 
アキコサマ
チョットシタ
ミスデスネ」

そう言いながら
ジローは、
クルリと目を回し、
ペロッと舌を出した。

それは、展示品の
頃に、悪ガキどもに
悪戯で書き込まれた
動作だった。
余程うまく書き込ん
だのか、店が何度
フォーマットしても
その動作は
治らなかった。

「何だいその顔は!
もう本当にどうして
くれるんだい!」

あたしの大事な
紅茶セット。

もう二度と手に
入らない。この
クソバカロボット
のせいで。

「台所をさっさと
片付けておしまい!」


一人と一台の
生活は、こうして
派手に幕をあげた。