今日はもう上がるか、武田は車を事業所の方へ向けた。

まずまずの稼ぎがあった。
長距離が二本あったのが効いたな。

早めに上がってビールでも呑もう。
借りていたDVDも見なきゃな…

頬が少し緩みかけて止まる。

あやめ動物園の前に客がいた。
良い身なりをしている。

どうする…躊躇したのはほんの僅かの時間だ。
武田はタクシー運転手としての己の勘と、
今日の運を信じた。

近くに寄った。
思ったよりも若い男だが、やはり金を持っていそうだ。

ドアを開ける。
覗き込んできた男の顔は、丸くて愛嬌がある。


「すいません、伊丹空港までお願いできますか」

伊丹空港…事務所のすぐ近くだ。大体、3500円といったところか
…まぁ、最後の一稼ぎには願ったり叶ったりだ。
本当なら、空で帰らなきゃならないところなのだ。

「どうぞお乗りください」

「あ、ありがとうございます!」

なんだか、腰の低い可愛らしい青年だ。
武田は、今日一日がこんな上客で終わることに感謝した。
二へ