祖母の寿美は、今年で85歳になる。
夫は名うての遊び人だったという。
結婚して、知佳の母である雅恵が生まれてから、
自宅に帰らなくなったらしい。
たまに幾ばくかの金を置きに来るが、持ち出す方が多く、
寿美は苦労に苦労を重ねたようである。
そのせいか、知佳の誕生を誰よりも喜んだのは寿美であった。

知佳の誕生日は7月7日、七夕である。
誕生日には笹飾りが付き物であった。
短冊に何を書いたか覚えていないが、祖母と父母の笑顔だけは
今でも記憶に残っていた。
あの頃、祖母はまだ働いており、知佳を連れ出しては
遊びに連れていったものだ。

ふと、その当時の思い出が甦り、知佳は少し涙ぐんでしまった。
あの頃の祖母とはあまりにも違う現状に打ちのめされたのである。
今、祖母は祖母の形を残してはいるが、何か違う存在になっている。
それでも知佳は、祖母の為に何くれとなく気を使い、介護を引き受けてきた。
共働きの両親を助けるのは自分の役目と決めていたのだ。
大学が終わり次第、家に戻り、祖母と残りの一日を過ごす。

が、最近、気が滅入って仕方ない時が多くなってきた。
祖母は決して知佳と目を合わそうとしないのだ。
まるで他人のように接してくる祖母に、時には苛々するのも確かだ。
それでも、知佳は祖母の面倒を見続けた。

祖母がいた。
ぼんやりと公園のベンチに座っている。
知佳は大きな溜息を一つ吐いた。