つくね亭がある森山市に、有名な老人がいる。
人からは、ホタルじいちゃんと呼ばれていた。

「ホタルじいちゃん?頭ピッカピカっすか」

「あぁ、そうか。あふろ君は最近来たばかりだから後藤さんの事、知らないよな」
熊は、仕込みの手を休めた。

「この森山市は、昔、源氏ホタルで有名な所だったんだよ。
ごく普通に町なかをホタルが群れ飛んでいたね。
民家の軒先や近所の野原に沢山いた。そりゃあ綺麗なもんでねぇ…
あ、ジャガイモは皮ついたまま洗って」

「おぃっす」

「ところが乱開発のおかげで一気に水が汚れてしまってね、
ホタルはあっという間に姿を消した。
後藤さんは、もう一度ホタルを育てようと頑張ったんだ。
川の掃除から始めて少しずつね。最初はバカにしていた町のみんなも
手伝い始めたのさ。
俺も手伝ってる。ホタル、見たいからね」

あふろ君は洗う手を止めずに聞いている。丁寧に一つずつ洗っていく。

「何で始めたんすか?」

「なんでもね、お孫さんの為らしいよ。
お孫さんはこの町で一度だけホタルを見たことがあるんだって。
でも、見られなくなった。とても残念がってたそうなんだ。
交通事故で病院に運び込まれた時にも、ホタルが見たいって
言ってたそうなんだ。結局亡くなられてしまってねぇ…
後藤さんはその時に決めたそうだよ。もう一度、ホタルをこの町に
呼び戻してみせるって。…あれ?あふろ君泣いてるの?」

あふろ君の顔はグショグショに濡れていた。
「やだなぁ、水がかかったんですよ」

熊は黙ってタオルを差し出した。

「次、茄子洗っといて」

「おぃっす」
二へ