次の日から、源次は常にディスクを手放さなくなった。
ちょっとした合間に構えてみる。
部屋の中で練習中、手から離れてしまい花瓶を倒して
しまったりもしている。
家人にしてみれば困ったことなのだが、源次は
「スナップ。平行」と相変わらず呪文を唱え続けた。

近所の口さがない連中も、そんな源次を見て笑った。
「年寄りの冷や水ってのは聞いたことがあるが
年寄りの冷やフリスビーってのは初めてだ」

だが源次は全く意に介さない。
(笑いたいもんには笑わせておけば良い。
初めから上手い奴などおらんわ)
開き直って続ける。

その後も、少女とは何度か出会えた。
芳美、と名乗るその少女に手ほどきを受け、
源次は段々と様になってきた。

ディスクを投げるのに力は要らない
それよりも、速いスピンをかけられるかどうか、なのだ。
源次はわざと向かい風の日を選んで、一人で黙々と練習を続けた。
風に向かって投げる。これは確実にテクニックを磨くことができる。
ただし、手首にかける負担も大きい。
痛む手首を冷やしながら、源次は黙々と回数を重ねた。
練習を始めて二ヶ月。
源次の投げるディスクは20mを越えた。


七へ