何度試しても同じであった。
ゆるやかに流され、するりと弾かれる。
「無駄だというのに。参るぞ、十兵衛」
天海の体から水銀の触手が無数に生えた。
これだけの数の触手に襲われたら、さしもの
十兵衛といえども無傷では済まない。

が、一瞬、天海の動きが止まった。
その動きを止めたのは、背中に突き刺さるかんざしであった。
紫近が投げたかんざしである。
太郎丸が驚いて、紫近に訊いた。
「お、お姉ちゃんすげぇ!何で刺さるの?!」

紫近も全く判らないといった表情で答える。
「判らない。もう、これしかかんざしが無いから夢中で投げたの。
ベッコウだから刺さるわけ無いのに…」

十兵衛が懐を探りながら紫近に叫んだ。
「助かった。紫近、それだ!おそらく、刃物でないものは
止められぬのだろう」

「その通り。だが、それと判っても貴様等に勝ちは無い。
木刀で殴るか?それとも、袋竹刀か。」
高らかに笑いながら、再び天海が触手を掲げた。

その触手が放たれるより早く、十兵衛が突っ込む。
天海と十兵衛がすれ違った。
数瞬後、仰け反って倒れたのは天海であった。
天海の首に深く突き立っていたのは、竹の串。
それは、十兵衛が柳生の里を出る時に懐に入れた
竹とんぼであった。
その竹とんぼが天海の頚動脈を貫いたのだった。

百二へ