「ふん。なんじゃい、向井か。もう会えないって
何じゃ。ここを出てくんか、あぁそうか、
会社が潰れよったか」
うしゃしゃしゃと、前歯の無い口が笑った。

「はは、まだ辛うじて潰れてませんがね、
明日をも知れぬ命ってところです。
…中に入らせてもらって良いですか」

「かまわんよ。最後の挨拶に来よるとは
殊勝な心がけじゃい。
反省したのなら許してやっても良いんじゃ。
入れ」

家の中もゴミだらけである。
凄まじい臭気が向井を包んでいるのだが、
彼は笑顔を崩さない。
笑顔の面を被り続けている。
もはや肉付きの面になっているのかもしれない。
背中を向けて無防備に前を行く丸岡に、
向井は聞こえぬように別れの挨拶を言った。

「さよなら。丸岡さん。二度と会えないですが、
全然寂しくないですよ…」
振りかぶった包丁が丸岡を襲った。
血飛沫は、2m近く飛び、辺りのゴミを赤く濡らした。