「なんであなたは泣かないの」

そう、鏡に問いかけた。その途端、気付いた。
「そうか。あたし、胸に穴あいてんだ。だから
涙が溜まらないんだな」

なんだ、そうか、そう呟いてトイレを出た。
皆はもう帰っている。
薄暗い灯りの下に、健ちゃんだけが残っていた。

「あ、やっぱりそこだ。絵里さん探してたんすよ」
いつもと同じ笑顔の健ちゃんがいる。

大丈夫。笑って見送れるよね、あたし。
自分に確かめる。

「なぁに。何か用?」

健は、カウンターの上に一杯のカクテルグラスを置いた。
綺麗なオレンジ色に満たされている。

「これ、この店で作る最後のカクテルです。
絵里さんに飲んで欲しくて待ってました。」

「…そう。ありがとう。綺麗なオレンジ色。どうやって
作るの?」


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