「組手?」

「そう。実戦に近い稽古。太田さん、喧嘩って怖いでしょ」

「押忍、怖いですね」

「何でだと思います?」

「…理由は…解りません」

「痛みが解らないからですよ。どこをどのぐらい叩かれたら、
どれほど痛いか。それが解らないからです。
喧嘩なれしてる奴は、それが解ってる。
どこをどのくらい叩いたら、効果的か実戦で解ってる」
美濃浦はそこまで話し、一人の青年に声をかけた。

啓吾が通う時間帯に、よく顔を見せる青年だ。
初めて、道場を訪ねた日にサンドバッグを蹴っていた男である。
青年は、丸刈りの頭に細い目で人なつっこく啓吾に話しかけてきた。

「いつも、熱心すね」

「あ、あぁどうも。なかなか上手く蹴れなくて」

「いや、大丈夫っすよ。きっと上手くなるっす。俺、赤井って言います」

「太田と言います。よろしく」

「赤井くん、太田さんと組手してあげて。3分間でいいや」

「押忍」
「お、押忍」

初めての組手。それどころか、初めての殴り合いだった。
啓吾は、己の足が震え出すのを他人事のように感じていた。

「正面に礼。お互いに礼。構え。始めっ!」