幸いにも、明彦が妻にした麻理子もまた、和食器が大好きな女性であった。

「あなたに似てるわね、この武骨な茶碗」

「このふっくらしたところなんかはお前にそっくりだ」

新婚旅行先で買い求めた夫婦茶碗のように、二人は仲良く寄り添い暮らした。

笑いあい労りあい、年を経るごとに、二人も夫婦茶碗も円やかな輝きを深めていく。

子供は出来なかったが、二人は誰よりも幸せだった。


その日の朝、麻理子が買い物に出た直後のこと。

明彦が洗っている茶碗が手の中で、いきなり二つに割れた。

「な…んだ?」

同じ時間、麻理子は車に跳ねられ、即死していた。

病院の安置室で明彦は麻理子にすがって泣いた。

「夫婦茶碗は片方だけでは何ともならんわい」
そう叫び、声が枯れるほど泣いた。

葬儀が終わり、抜け殻になった明彦は割れた茶碗を仏前に供えた。
その頃から、明彦には軽い麻痺症状が見られるようになった。

一人暮らしがままならなくなった明彦は、市職員の世話で介護施設に入る事になった。

食事の時間、明彦の前に並べられたのはプラスチックの食器であった。

彼にとって、その食器は最大の屈辱である。


最終へ