嬉しいことは確かだが、せっかく着替えた服に猫毛が付いてしまう。

綾は、そっとイブを下ろした。
イブも満足したのか、素直に寝床に戻る。

「般若心経と数珠と、乾いた塩と米持った?」

それは、『見える』体質の綾を気遣った父母が選んだ手段であった。

戦争の犠牲者が数多く眠る場所である。
尋常じゃなく見えてしまう綾に憑いてしまうかもしれない。

が、綾は見えるだけで、対処する方法を知らない。

「もしも塩や米が湿ってしまうようなら、その場所に捨てて来なさい」

母からは、そう教えられた。

「雨かなぁ…曇ってるね」

心配そうに窓から空を見上げる綾に、何故だか母は自信有りげだ。
「大丈夫。お父さんが良いこと考えてるから。
絶対晴れるよ」

「何で?」

「まぁ、あの熊に任せとくといいから。
じゃあ行って来なさい。行くからには、楽しんでくるべし」

母に背中をどやしつけられ、玄関から外に出た。
飼い犬の福がヘッへッと見送る。

出窓に居るイブも、軽く尻尾を振っていた。

そして、母の予言通り、沖縄は快晴であった。

今朝になって、急に晴れてきたらしい。

綾には、この快晴が父のおかげだと思えてならなかった。

「父さん…何やったんだろ」

あまり考えたくない綾であった。