「さ、ここだ」

「すごいなぁ。おじさん、なんでこんなに沢山の人がいるの?お祭りかい?」
「…若。ここは。その、いわゆる」

しどろもどろする又佐をからかうように十兵衛が答える。
「いわゆる吉原だ。相変わらず賑わっておるなぁ。又佐は知らぬのか?」

「わ、私は妻一筋でございましたゆえに吉原など滅相もございませぬ」

「お堅いことだ」
既に太郎丸と韋駄天は大門をくぐり、中に入っていた。
新吉原はいくつかの大火をきっかけに、幕府から免状をもらった
唯一の歓楽街である。
もちろん、その裏では計り知れない上納金が納められている為、
ある程度の自治権が認められていた。
三味線の音が絶え間なく聞こえる。今夜の相手を選ぶ者、
ただ単に冷かしに来た者。
華やかな衣装を纏った遊女が男達と笑いあう。
武士も町民も無い。入り混じった雑踏が凄まじい喧騒を上げている。
その喧騒が一瞬、水を打ったように静まった。

「おじさん、あの女の人、綺麗だね」
太郎丸も韋駄天さえも、そう言ったきり感心したように黙り込む。

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