恐ろしげな化け物も、よく見ると荒い作りだ。
一気に興味が失せた大久保さんは、外に出ようとして
妙な物に気づいた。

苔に塗れた石碑のようだ。
指先で触れると、表面に何か刻まれてあるようだ。
『塚』という字だけが判る。
後は削られている為、何の塚か判らない。
それが倒されている。
偶然倒れたのではない。
人の手によるものは確かであった。
 
その時、話し声が聞こえてきた。
「やっぱりそうですな。首塚、倒したおかげで
あいつら出てきよったらしい」

「やっぱりな。おかげで稼がせてもろたで」

「どうしましょ?元に戻しときましょか」

「面倒やな。かまへんがな、今日で終わりやさかい」
違いない、と話し声は遠ざかっていった。

「大変だ。なんとか元に戻さなきゃ」
大久保さんは満身の力を込め、石碑を戻そうとした。
その時、背後で声がした。

そのままにしておけ
戻したら、ただではおかぬぞ

何十人もが擦れた声を揃えて言ったという。

大久保さんは、振り向かず必死で逃げたそうだ。

「何の塚かは調べてません。判ったら、余計に怖いし」

結局、今でもまだその石碑は倒れたままである。