俊輔は痛む体を騙しながら、オカンボを問い詰めた。
「ったく、そんなに強いのならどうして最初から…」

オカンボは再びニタニタと笑いながら言った。
「これからあんたの女房が命を産もうとしているんだよ?
旦那の方も命がけになるのは当然だ。その覚悟を見せて
欲しかったのさ。」

「それにしたって…」

「言っただろ?私はスピードとケンカが大好きなんだよ。さ、急ぐよ。」
「は、はいっ!」
俊輔は車に乗り込み、エンジンをかけた・
あと少し、もう少しだ。頑張れよ、里美っ!
いつの間にか声に出して言っていることに気付かない。
オカンボがそんな俊輔を笑って見ている。
今度はニタニタ笑いではない。
我が子を見守るような微笑であった。

里美の額に油汗が粘りつく。
「俊輔。俊輔、まだかー。くっそー、いよいよこれはヤバイかな」

ムアンギはオロオロと辺りをうろつくばかりだ。
「里美先生、ぼくどうしたら良い?」

「そうね、とにかく沢山お湯を沸かしといて。
もう駄目みたい。私、産むから」
サバイバルナイフをじっと見つめる。

「最初に切るのがへその緒なんて、
サバイバルナイフにしては上出来じゃない?」
まだ余裕があるな、と自分に言い聞かせる。
大丈夫、あたしは出来る。
あたしはボキンちゃんだ。
里美はいつの間にか小さな声でボキンちゃんのテーマを歌っていた。


十九へ