「本当かい、十兵衛様」

「あぁ、約束だ。判ったな、太郎丸。頼んだぞ。」

「うん。判ったよ。必ず、届ける」
再び走ろうとする太郎丸を十兵衛が止めた。

「そうだ…太郎丸、お前、竹とんぼは作ったことがあるか?」

怪訝そうな顔で太郎丸は答える。
「…うん。村に居た頃はよく作ったよ」

「そうか。それは助かる。村の祭でな、子供達に竹とんぼを
作ってやる約束をしたんだ。間に合わないかも知れぬ。
太郎丸、おまえが先に里へ着いたら、作ってやってくれぬか」

「判った。任せてよ」

「それとな」

「はい」

「俺は大好きな者には、自分のことをこう呼ばせている。十さん、だ」

「十さん…?」

十兵衛は再び走りながら太郎丸に微笑んだ。
「今から俺のことを十さんと呼べ、行くぞ、太郎丸っ!」

太郎丸の顔がくしゃくしゃに歪んだ。
泣くのを懸命にこらえているのだろう。
「はい、十さんっ!」

二人が走り出す。韋駄天がそれを追い抜いて先頭に立った。
その首には紫近が巻いてくれた首輪がある。
十兵衛達は魂を一つにして寛永寺に向かった。



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