意識を取り戻した時、林田はあの鍾乳洞の広間にいた。
背中には冷たく、硬いものがある。
石の台の上で、林田は力の限り身を捩ろうとした。
力が入らない。縛られてもいないのに、逃げられない。
林田の肉体は完全に麻痺していた。

「おや。気がつきましたね。そのまま、気を失っていれば
苦しまなくて済むものを」
さらに冷たさを増した成加の声が聞こえた。
姿は見えないが、足元にいる。
おそらく、メスを持っているのだろう、と林田は絶望した。

「さぁ、真由加。くちづけをなさい。羽化の引き金を引くのです。
時間がありません」
林田の視界に真由加が入ってきた。
すでに包帯を取り去っている。
その肉体はあまりにも惨い様であった。

真由加は林田の上に覆い被さり、その腕で林田を
抱いた。
そして、静かに唇を合わせた。
その時、林田の口に何か液体が流れてきた。
喉を潤し、入っていく。
離れ際、真由加が耳元で囁いた。

「1分で体が動くはず」
解毒剤であった。
確かに、林田の体に痛みが戻ってきた。

「さぁ、それでは蛹入りを始めましょう」
成加の声が近づく。

「田畑。メスを」
「今よっ!利樹さん、逃げてっ!」
真由加が叫んだ。