「おやおや、臆病な子だ。さて、風呂の火を止めるか」
立川先生は風呂の戸を開けた。
大型の五右衛門風呂はグツグツと湯が煮え滾っている。
その中には何も無かった。

玄関先で声がした。
「ただいま帰りました」
立川先生の妻の淑子である。

「お帰り。旅行は楽しかったかね?」

「えぇとっても。あなたは?お仕事の方は捗りました?」
旅行鞄から土産物を取り出しながら淑子が聞いた。

「ん?あぁ、巷談社の締め切りなんだがね。
少し待ってくれるみたいだよ。」
締め切りを延ばせるならば、多少、肉を無駄にしても
惜しくは無いさ、と立川先生は胸の中で笑った。

「ちょっと出かけてくる」

「あら、どちらへ?」

「小学校から借りた骨格標本を返してくるのさ」

立川先生、よっこらしょ、とばかりに骸骨を背負った。