長く降り続いた雨がようやく止んだ。
強い日差しを浴びた路面から、サウナのような熱気が立ち上がってくる。
うだるような一日が始まろうとしていた。
一週間ほど微震が続いている。
日本という国がフライパンで炒られているようだ。

京都駅前交番に勤務する吉野巡査は迷っていた。
不審な男がいる。
汚れたスーツ姿で、大量のカバンを持っている。
見逃してしまえば、帰宅できるのだ。
昨夜はシンナー中毒の若者を確保するのに往生した。
出来れば一刻も早く帰って眠りたい。
それに、どことなく見た事がある男だった。
吉野は、同僚に申し送る事無く帰宅の途に着いた。
その選択を結果的に悔いることになる。

男は、カバンを一つ下ろし、中からタイマーを引きずり出しセットした。
それを駅のベンチに置き、振り向きもせず電車に乗った。
こぼれ落ちそうなぐらいの人で埋まったホームの片隅で、カバンの中のタイマーは正確に時を刻んでいった。

その針が真上に来た。
タイマーは、大量の爆発物に繋がれてあった。


死者572名、重傷者783名、行方不明者23名。
軽傷の者を含めると実に3000人近くの被害者で駅前は埋めつくされた。

正しく、地獄絵図であった。

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