「お母さん、ミチクサ知らない?」
またどこかへ行ったのか、智はベッドの
中で寝返りを打ちながら姉の声を聞いていた。

いいじゃん。ミチクサって名前付けられてる
ぐらいの猫なんだから。
基本的に自由なんだよ、あの子は。
そう、皮肉っぽくつぶやいてみる。

「知らないわよ。どうせまたどこかで、
ミチクサ食ってるんじゃないの?」
智の思ったそのままを母が返している。

くすっ、と智は笑った。
さて、そろそろ起きなくちゃ。姉は次に
この部屋へ入ってくるに違いない。

「智、ミチクサ知らない?」
ほーら、来た。

ミチクサは、姉の江梨子が拾ってきた猫だ。
黒猫なのに、水色の目を持つ。
文字どうり、姉が寄り道をしている時に拾った。

いい加減な名前に、智は最初反対したのだが、
飼いだしてみて、いかに適切な名前かが判った。
とにかく、しょっちゅう留守にするのだ。

ふら、っと出かけては、二・三日で帰ってくる。
家族も最初は心配したのだが、この頃では
すっかり慣れてしまっていた。

けれど、今回ばかりは江梨子が焦るのも無理は無かった。
もう1週間帰ってきていないのだ。
さすがに皆、少し心配になってきた。