振り向いた河田さんは、しまったという顔付きで
プールから上がって来た。

「河田さん、何すか、その泳ぎっぷり」

興奮して話しかける私に、河田さんは渋い顔を
崩さずに答えた。
「緒川くんさ、悪いけど今見たこと黙っててくんないかな」

「何でですか。今の泳ぎなら肩こるほど金メダル
取れますってば」

河田さんは、寂しげに顔を伏せた。
「オリンピックか…人間しか出られないだろ」

「え」

「僕ね、河童なんだよ」
そう言いながら、スイミングキャップを取った。
その下から、見事な皿が現れたのだった。

「ね。いつもはキャップ被ってるし、私服の時はカツラを
付けてるから。甲羅は取り外し自由だし、体の色は
自由に変えられる。手と足の水かきも出し入れ自由なんだ」

さっきなんかはこうやって、と河田さんは水かきを出した。
「僕ね、今の生活すごく気に入ってるんだ。
だからさ、緒川くんを男と見込んでお願いするよ、
黙っててくれないかな」