その肩が小刻みに震えている。
押し殺したような声が聞こえてきた。
「私は、世界の平和を思い、あえて息子の死に、目をつぶったんだ。十字架を背負うなら一本でいい。息子と共に地獄に堕ちる気持ちを固めた」

小刻みに震えていた肩がピタリと止まった。
尚も押し殺した声が続く。
「だが貴様らは何だ。そうまでして守った貴様らは、平和の意味を判っているのか」

羽賀は顔を上げた。凄まじいほどの怒りに満ちた顔である。押し殺した声は怒号に変わった。

「息子は方法は間違ったが、真剣に国民の事を考えていた。だのに貴様らはバカ総理バカ総理と!マスコミまでもが!私はこんな愚かな者達の為に息子を見殺しにしたのか、貴様らの爛れきった暮らしは誰が守ったと思う」

「だ、だからといって、何の罪も無い人達を殺して良いはずが無い」

突然、羽賀の勢いは空気が抜けた風船のようにしぼんだ。

「もちろんその通りだ。私も黙って自殺するつもりでいた」
「ならば何故!」

「時間が無いんだよ。どうせみんな死ぬんなら、恨みを晴らしてから地獄に堕ちたかった。」

羽賀はその日二回目の笑みを浮かべた。壮絶な笑みであった。


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