志乃の掌には、あのボタンがある。
じっと見つめ、志乃は何事かを決心したように、小さく頷いた。

次の朝。
志乃は徹の病室を訪ねた。

「おはよう、徹さん」

「志乃さん、ありがとう。おかげで助かりました」

志乃は、事情を話した。
既に徹も覚悟を決めていたようだ。
「僕、学校を辞めて療養に専念するつもりです。体が治ったら、働いて
入院費を返してもいい、そうお医者さんは言ってくださいました」

「いいのよ。ね、徹さん。頑張って治そう。あたしに任せといて。
あなたは心配せずに、病気をやっつけてきて」

志乃は細い腕で力瘤を作ってみせた。
「あたし、こう見えてもお金持ちなんだから。あなたの学費はあたしが
納めておいてあげる。大丈夫、体を治してから、また学校に行けるように
しとくからね」

徹は心底驚いた様子で志乃に詰め寄った。
「駄目です、志乃さん。僕なんかの為にそんなことしちゃ」

「駄目はそっちよ。あたし、もう決めたの。ここであなたを見捨てたら、
死んでから竜司さんに逢えないもの」

徹はベッドに正座し、ぽろぽろと涙を流した。
「僕、捨て子だったから、ずっと父さんと二人きりだったから、
判らなかったけど。きっと、お母さんて志乃さんみたいな人のことを
言うんだろうな」

志乃の胸が詰まった。
「あはは、こんなヤクザなお母さんなんか居ないわよ」

笑い飛ばそうとして失敗した。