久しぶりの友の顔は思いの外、明るかった。
気を使って、電話一本すらしなかった事がうしろめたくなるほどだ。

理由がある。
奥さんを亡くし、老母と二人で娘を育てていると聞いていたからだ。

仕事をしながらの育児は苦労の連続だと思う。
特に、あいつは至って不器用な方だ。
そんな時に、妙に気を遣わせるのは躊躇われた。
ところが、街で偶然出会った奴は元気そうに手を振ってよこしたのだ。
いかつい体でベビーカーを押す姿が微笑ましい。

「よう、随分会わなかったな」
声にも張りが有る。
少し痩せたようだが、それ以外は昔と変わらない。

「元気そうだな、もう落ち着いたのか」

「ああ、どうだ少し話さないか?せっかく散歩に出たんだが、寝ちまってな」

大きな体を丸めた奴は、愛しさを丸出しにしてベビーカーを覗きこんでいる。
つられて私も覗いた。
すやすやと寝息を立てる宝物がそこにあった。
亡くなった奥さんに目鼻立ちが似ている。

「これ、本当にお前の娘か?」

「そう言うと思ったよ」
奴がニカッと笑う。
私達は公園のベンチに座り、近況を報告し始めた。

桜の花びらが、ベビーカーにも優しく降りかかる中、奴の不思議な話が始まった。