「ささ、食べてくれ」

「ご馳走になります」

「酒は無いが構わんか」

「猫又は油を嘗めるものですから」

「ちがいない」

これほど気持ちの良い人間は久しぶりに見る。
先生はすっかり竜馬に打ち解けてしまった。
妖しのもの達の事から始まり、箱根天狗との闘いまで、話は延々と及んだ。

「ほほう…、柳生十兵衛殿はそれほど強かったのか」

「強かったですね。まずは、当代随一でしょう」

「行きたかっただろうな、大陸へ。もう少し後ならば、
何の苦労も無く行けただろうにな…」

先生と竜馬は初めて会ったにも関わらず、
長年の友の如く、穏やかな時を過ごした。

「明日、近江の国に旅立ちます。お近くに来られた時は、
どうかお立ちよりください。街道に居る猫に訊ねてもらえば、
場所が判りますから」

「ほほう、そりゃええがやき。妖怪達に囲まれての酒か、
何やら楽しいことになりそうじゃ」
竜馬は先生の前足を名残惜しげに柔らかく握ると、
再会を約束し、立ち去った。

十五へ