「そ、そんなもん十郎太さんにかかったらイチコロや!」

「そうもいかんだろうな」
いつの間にか、十郎太はひょうすべの背後にいた。
さっきまで立っていた枝は、微動だにしていない。
葉一枚すら落としていない。

それほどの体術を持つ十郎太だが、顔色は悪い。
どんな時でも唇の端に残している笑みが消えていた。

「あれは厄介だ。ひょうすべ、ここは俺が引き受けた。
おまえは先生の元に戻れ」

「な、なに言うてまんねや。男ひょうすべ、敵さんに背中見せられまっかいな」

増長天は現われた時の笑顔を取り戻している。
「奥の手は最後まで残しておくものだ。ということはだな、
これがお前等の最後というわけだ」

腰を低く溜め、半身に構えたまま、じりじりと増長天が歩を進める。

一歩。
又、一歩。
絶対的な死が近づいてくる。