「あ、見えてきた。あそこです」
熊が嬉しそうに指差した先は、八幡公園である。
少し小高い山の上にある公園は、花見で有名な場所であった。
さすがにこの時期、人影は全く見られない。

「ここなら知ってるよ、熊さん。花見で有名な場所だ。
満開の桜はそりゃもう綺麗なもんだが」

「今の時期はどうなんだ、ってな顔だぁね。
ま、いいからいいから。行けば判るよ」
ねこや堂にせっつかれて、絹田と美登里は公園の奥を
目指した。
そこにある小高い丘が、最も有名な花見のスポットなのだ。

「うむ。なんとか間に合った」
ねこや堂が満足気に言った。

「これはすごい」
声を揃えた絹田と美登里は、次の言葉を失った。
二人の目の前に広がるのは、桜の紅葉である。
見る人は少ないが、桜は桜色に葉を染める。
桜の名所、吉野山では、近年桜紅葉を愛でる人が増えてきているともいう。
ただし、桜紅葉は散るのも早い。
花にしろ、葉にしろ、桜は潔いのだ。

「いいでしょ、桜紅葉って何だか力に溢れてる気がしませんか。
花だけが桜じゃない。枯葉となって散るまでが桜です」
熊の言葉に、ハッとして美登里は振り向いた。