熊か、嫌いな人間よりはマシかもしれないな、と
綾は呟き、その店に足を向けた。
今日は直帰ということにすればいいと自分に言い聞かせた。
電車に乗って二つ隣の駅前にある商店街だと聞いている。
桜の花を肩に乗せたまま、綾は駅に向かった。

その店の特徴を前もって聞いてはいたが、
実際に目の当たりにするとニヤニヤと笑えてきた。
黄色い熊の人形が、本日のお勧めという看板を持って立っているのだ。

『本日のお勧め・朝掘りの筍の若竹煮 うすいえんどうの豆ご飯 
 鰹のたたき 春キャベツのぬか漬け 山菜そば 
クレソン入り和風パスタ 鯵の干物』

見ただけで腹が空いてきたのが判った。
思い切って店に入った綾を笑い声が出迎えた。
一瞬遅れて「ぇいらっしゃい」と元気な声がする。

熊だ。
あはは、確かに熊がカウンターで笑ってる。
空いている席は僅かだ。
普段の綾なら、それだけで苛つくのだが、この店には
そうさせない何かが有った。

「ごめんなさいね、カウンター席でいいかしら」
スッキリと背すじを伸ばした女性に案内され、カウンターの
左端に座った。
三へ