「すげぇ困るな」

「あなた何か変よ?」

死なれたら堪らない。
先程からの奇妙な偶然が、いつも強気な有田を弱気にさせた。

「なあ、おまえさ、今日一日遊んで来いよ。これ、小遣いやるからさ」


早智は信じられないとでも言うように、口を開けっぱなしだ。

「だ、大丈夫?あなた。」

「なにが」


「だって、いつも言ってるじゃないの。釣った魚に餌は」

「それ止めてくれ。いいから、行って来い」


追い立てられるように早智は身支度を整えて出掛けていった。

後に残った有田は、何だかホッとした顔つきで妻を見送り、冷蔵庫からビールを取り出した。


駅に向かいながら早智は、鞄から小銭を取り出しながらマンションの管理人に挨拶した。

「ありがとうございました。今からちょっと遊んで来ます」

「おや、楽しんでおいでなさいよ」

次いで、川で遊ぶ子供達に小銭を渡す。

「ありがとうね、あんた達」

「おばちゃん、うまくいった?」

「バッチリよ」


早智は、八代にも喫茶店のマスターにも礼を告げてから駅に向かった。

全て、早智が仕組んだ事だったのだ。

行動パターンを読み切った早智の勝利だった。

ニヤリと笑って早智はつぶやいた。

「釣られた魚も、たまには自由に泳ぎたくなるのよ」