「…何事か有るんですか。そんな顔つきの十さんは
久しぶりに見る」

「当たりだ。ここ最近、都に異変は起きていないか」

考えるまでもない、京どころではない。
都を焼き打ちしようとする計画が
持ち上がっていることを先生は既に知っていた。
長州藩の来島又兵衛が公然と言い放っているのだ。

「うむ。おそらくそのことだな。その来島某、操られているやもしれん。
或いは既に布袋が造りし偽者か…
なぁ先生、天海という僧を知っているか」

「無論。嘘か真か、元は明智光秀殿だとか」

「それも当たりだ。俺はその天海と闘った。なんとか打ち破ったものの、
最後の最後に逃げられてしまった。
その天海は、二百年後に現れ、天下を乱すと言い残している。
それが今なのだ。
先生、気をつけてくれ。
奴はなかなか手強い」

そこまで一気に言った後、十兵衛はまた、朗らかに笑った。
「無論、先生が苦戦するとは思えぬがな、
柳生の里から一人、役に立つ者が行くはずだ。
代々伝わる、やたらと長い刀を持っているから、すぐに判る。
それと、奴の水銀の鎧には刃物では歯が立たない。
天然自然の物を使うんだ。
いいな、先生」

「判りました、十さん。必ず討ち果たしてみせます」

十へ