「いぶまま、いぶままの御自慢の漬物があるって聞きましたけど」
主婦になったばかりのろりが小学生のように手をあげる。

「あら、よく知ってるわね?」

「つくね亭の、いやいや、つくね夫妻のことなら何でも
知ってますよ。ふっふっふ…」
あやのすけと遥架の子育て息抜き組も、好奇心丸出しでいぶを見つめる。

「食べたいよねー、遥架ちゃん」

「そうっすねぇ、あやのすけさん」
食べたい、食べたい、と大合唱が沸き起こる。

「やれやれ、仕方無いわねぇ。よろしい。特別に
食べさせてあげる」

茄子、大根、胡瓜などを少しずつ小皿に盛ってきた。

「…なにこれ。全然違う」

「こんなの今まで食べたことないっ!」

そう、いぶが大切に育てているその糠床から
生まれる漬物は、いつでも皆を驚かせた。

「これ、どうやって作るんですか?」
「作り方教えてくださーい」

いぶは困った顔で皆を見渡した。
「これはねぇ…多分、二度と出来ないわ。
もう何年も前の話よ。その当時、近所に居た
よ~さんて方が本当の持ち主なの」

皆、黙っている。いぶの顔つきが、いつになく
淋しげだからだ。
こんないぶを見るのは初めてであった。

四へ