幸ちゃんの話は、とてつもなく面白く、それだけで一冊の本になりそうな程であった。


「この人はねぇ、酒癖はええんやけど女癖が悪うてねぇ」
幸ちゃんの隣で微笑むのは奥方の寿子さんだ。

「浮気されるんですか」私は意外であった。
ヒゲの無い恵比寿様のような外見の寿子さんに、幸ちゃんはベタ惚れと聞いていたのである。

「かまへんのよ、芸人やからね。
人気のバロメーターやし。
おもろいよー、あんなポケベルて有ったやろ?
生意気に持ってたんよ。
このタコ坊主が。」

ペチペチと幸ちゃんの頭を叩きながら、寿子さんは何を思い出したのか、クスクスと笑っている。

「浮気相手から連絡が入った丁度その時に、わたいが帰ってきてん。
そしたらな、慌ててポケベル飲み込みよった。」
幸ちゃんはあらぬ方を見ている。

「今、何呑んだんや、ちゅうてもしらばっくれる。
したらな、腹ん中でポケベル鳴り出しよんねん」
わはは、と夫婦揃って笑う。
酸いも甘いも噛み分けたというのは、この夫婦の為に有るような言葉である。

私も取材を忘れて、心地良い酔いに身を任せた。