もうこれ以上、一歩も歩けないと言った態だ。

問わず語りにボヤくウィルの話を聞くともでなく聞いていた陽菜は、その哀れな様子に、仕方なくお饅頭を差し出した。
四国からはるばる、何百キロも歩いて来るのは、小さな狸にとって大変な難行に違いない。

動物好きな陽菜に見過ごせるわけが無かった。

「お、お、お饅頭だ!
いいんですか」

「いいよ。あげる。頑張って滋賀県まで戻らなきゃね」

「ありがとうございますっ!」

ウィルは余程お腹がすいていたのか、息もつかずにお饅頭を平らげた。

「まだ家に有るはずだから、それもあげる。
ちょっと用事が済むまで待っててね」

「あ、ありがとうございますぅ」

ぺこぺこと頭を下げるウィルに小さく手を振って、陽菜は猫達のもとへ急いだ。

角を曲がると猫達の住む空き地、という所で、凄まじい唸り声が聞こえてきた。

母猫の声だ。
陽菜は走り出した。
空き地から聞こえる音には、笑い声も混ざっている。

陽菜の足がすくんだ。
空き地に居たのは、中学生の男子が三人。

そのうちの一人が、猫達が入っていた段ボールを頭上に掲げている。
その中からは、子猫達の鳴き声が聞こえていた。