「な、なぜそれを最初に出さなんだ」
激痛をこらえ、大黒天が訊いた。

笑みを浮かべる又佐の唇と鼻から血が流れ出した。
「この槍に斬れぬものはない。ただし、その為には贄がいる。
使う者の命を喰らうのじゃ。ゆえにこの槍の番号は死番と振ってある」

又佐は神速と呼ばれ恐れられた腕でグングニルを振り回した。
大黒天には、一筋の連なる光としか見えない。
その光が止まった時、大黒天の体はまるで積み木のように
ばらばらと崩れ落ちた。

「若。やりましたぞ…はは、神速の又佐、まだまだ衰えてはおらぬな…」
槍を杖がわりに又佐は、すくと立った。

「太郎丸は無事だろうか…今、行くぞ…」
次の瞬間、又佐は大量に吐血した。
神速の又佐と呼ばれた稀代の侍は、立ったまま逝った。
最後まで又佐の瞳は、五重塔を見据えていた。
その側に突き立った死番の槍が又佐の墓標だった。


韋駄天が哀しげに吼えた。
まるで、大切な者を失った悲しみに耐えるように。
韋駄天には又佐の最後の声が聞こえたのだ。


九十五へ