ここ?
窓の外を見慣れた顔が通った。

見慣れている筈だ。
そこに居たのは一時間前の私だ。
バス停を捜すうち、道に迷ったのだ。
心細さを露わにしながら、地図を見ている。
何とも情けない顔だ。

「ね?一時間前」

「ね?って言われても。あの、もしかすると行きたい過去に遡れる…なんて」

にこやかな笑顔が何よりの返事だ。
俄かに信じられないが、事実そこには私が居る。
だとすれば、行きたい過去がある。

十年前。
妻と初めてデートした日、笑いあった場所。
おかしな事だが、私は涙すら流してしまったのだ。喜びの涙とでも言うのだろうか。

「十年前。場所は新国山駅に」

「ありがとうございますぅ。…あれま」

先程までの明るかった顔が曇った。

「どうしたの」

「えとですね、お代金が」

「あ。ごめん。幾ら?」

車掌は困った様子でうつむき、ぽそりと言った。

「残りの人生です。十年前に戻るなら、残りの人生十年分」

なるほど。
当然と言えば当然だろう。
物々交換というわけだ。
十年分の人生か。

「それから、バスは降りられません。お客さん、現在の人間ですからね、過去に干渉しちゃダメなんです」