そして、鯰顔は意外なことを話し出した。

「僕ね、昔あそこでお婆さんにぶつかってさ」

「ありゃ。」

「向こうも悪いんだよ、突然立ち止まるんだもん。で、お婆さんね、頭から川に落ちた。」

新聞で読んだ覚えがある。
確か、打ち所が悪く亡くなられたと聞く。

見ず知らずの相手に打ち明けるような内容では無い。
恐らく、私をからかっているに違いない。

「悪い冗談ですな」
敢えて笑いかけた。

「僕は冗談なんか嫌いだよ」
途端に、男は声を荒げた。
鯰ではない。こいつはピラニアだ。
その剣幕に驚きながらも言うことは言わせて貰う。

「警察行った方が良いんじゃないんですか」

男はまた、もとの穏やかな鯰に戻り答えた。

「なんで?」

「なんでって…いや、だって現にお婆さん亡くなられてるし、事故だとしてもそれはそれで…」


「証拠あらへんがな」

ヤバい。
こいつ…危ない奴なのか?
ぞわり、と寒気が走る。

「それにな、なかなかどうしてヤラシイ婆さんやで」

「…何がですか」

キィ、と音を立てて男は自転車を停めた。

「さっきの道走るとな、追いかけて来るんや。腰曲がったままな、エラいスピードでな」

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