日奈子が、その臭いに気付いたのは先週の月曜日だ。
満員の電車内に何とも言えない臭いが漂ってきたのだ。
甘い香りに生ゴミが混ざったような臭いである。
辺りを見回したが、不思議と誰一人反応していない。

気のせいと言うには、あまりにも確かな臭いだったが、日奈子が電車を降りる頃には消えていた。

(何だったのかしら…)

日奈子は元々、他人の臭いに敏感な女である。
臭い人間が許せない。
不倫相手に遠田課長を選んだのも、品の良いパヒュームをつけていたからだ。

臭いの記憶は、意外に鮮明に蘇るものだ。
翌日、日奈子は身をもってそれを証明してしまった。
会社のトイレで、同じ臭いを嗅いだのである。

甘く腐った臭いが、トイレの芳香剤を押さえつけるように漂っている。
嗅いだ瞬間、昨日と同じ臭いだと判った。
隣で化粧をなおしている同僚は、何も感じていないようだ。

「ねぇ、何か臭わない?」

「え?芳香剤の臭いじゃないの」

「違う。何か腐ってるような臭い」

「わかんない。管理課に言ってみたら?」

話はそれだけで終わってしまった。
やはり、日奈子以外の人間には判らないのだ。


二へ