「えぇと、豚玉、ネギ少な目、竹輪多目。辛子マヨネーズと。飲み物はサイダーで」

驚いた。
当時の私が良く注文した内容だ。
「え、おばちゃん、まだ私の好み覚えていてくれたんだ」

登紀子さんは不敵、としか言えない笑顔を見せ答えた。
「当たり前だよ。あんただけじゃない、うちに来てくれたお客さんの好みは全部覚えてる」

大したことじゃないよ、と登紀子さんは豚玉をひっくり返した。
鮮やかな手並みだ。

「あんたんとこの親父さんはイカ玉。お母さんはモダン焼き。いつも仲良く並んで食べてたねぇ…あの窓から見える金木犀が香る頃にもう一度来るからって言ってたのに」
鉄板がジュッと音を立てた。
登紀子さんの涙が落ちたのだ。

「あ、ああごめんよ。」

「いいの。私なら大丈夫」
精一杯の嘘をつく。

「金木犀あったっけ?見せてもらっていい?」

立ち上がり、窓に近づいた。
窓越しに見える金木犀は、鮮やかなオレンジ色をばらまいている。

「綺麗な花だけどねぇ。弱い。
ちょっと雨風に吹かれると散ってしまうのよ。
それと、日本にある金木犀は種子が実らないんだってさ。
雄株しか無いから」